
植物が呼吸を止める時
因島で車を走らせていると、鼻の奥に深く印象に残る香ばしい匂いがすることがある。何かが焦げた時の香りとも違うし、排気ガスの香りとも違う。野焼きから出るあの香りは、独特なスモーキーさがあり、すぐに「どこかで野焼きをしているな」と分かる。きっと、炎を連想させる香りだからこそ、人間のDNAに深く刻まれているのだろう。
人間以外の動物もこの香りには反応を示す。野焼き後に出る草木灰を畑に撒いておけば、あの特有な香りによって動物は山火事と勘違いして一定期間は畑に近寄らなくなる。野焼きから出る煙は、周囲の先輩農家さんたちは「虫除けになる」と口を揃えて言う。では、植物はどうなのだろうか?
アメリカの「コロラド州立大学」の研究者が公開した論文に、ひとつの答えを見つけた。
研究者が木々が生える試験場で別の研究をしていたところ、山火事の煙が流れてきたため、葉っぱの気孔を観察したところ、それらが閉じていて植物が光合成をほとんど行っていないことに気づく。さらに、葉っぱが放出している化学物質である揮発性有機化合物(VOC)を測定したところ、非常に低い数値であることを確認。
通常時は二酸化炭素を吸収しVOCを放出しているが、その活動がないということから、研究者は植物が呼吸していないと結論づけた。
詳細なメカニズムは明らかになっていないが、この研究では煙の粒子が葉っぱを覆った可能性や、煙の粒子が葉っぱの中に入り込み気孔を塞いだ可能性などが示唆されている。もしかしたら、植物は煙を危険信号として認識し、山火事から身を守るために気孔を閉じているのかもしれないとも。
この研究は、野焼きは動物や虫を遠ざけるという効果がある一方で、植物に一時的な影響を与えるかもしれないということを教えてくれる。こうしたことを理解し、植物ひいては生態系がどのように反応するのかを知れば、それを何かに活かすことができるかもしれない。自然の営みに耳を傾け、それを新たな知見や技術に結びつけていくことが、伝統と未来をつなぐ鍵になるように思う。
出典:Wildfire Smoke Directly Changes Biogenic Volatile Organic Emissions and Photosynthesis of Ponderosa Pines
参考:Trees don’t like to breathe wildfire smoke, either – and they’ll hold their breath to avoid it / Colorado State University
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